About CareBPSDについて

BPSDとは?

周辺症状とも呼ばれており、中核症状が元となって、行動や心理症状に現れるものです。本人の性格や環境、心理状態によって出現するため、人それぞれ個人差があります。

BPSDを作り出さない関わりを作るためには

不同意メッセージを受け止めることが大切
不同意メッセージとは・・・介護職員との関わりの中で生じる、意識とはいえない不安・混乱・落ち着きのなさ・あきらめを示す態度や言動

BPSDにつながる不同意メッセージが気づかれないままケアが放置された場合、認知症高齢者の気持ちが不安定になり、BPSDにつながる。逆に、不同意メッセージに気づきケアが行き届くことで、認知症高齢者の気持ちに安定がもたらされる。

重要な不同意メッセージ

「服従・謝罪・転嫁・遮断・憤慨」という5つの不同意メッセージ
・特に「服従・謝罪・転嫁」の3つは、認知症高齢者の拒否行動と捉えられにくいため、介護職員に気づかれないままBPSDに至ることがあった。

謝罪
・うまくできないことを謝罪する
・失行症状によりできないことについて謝罪する

転嫁
・うまくできないことについて、できない理由として物や人のせいにする

遮断
・外部からの刺激を遮断しようとすること
・聞こえないふり・寝たふり・気がつかないふりをして職員にかかわらないようにする姿勢を示すこと

服従
・介護者の誘導に「しぶしぶ従う」
・やりたくないことを態度や言葉で表現してみるものの最終的には介護職員の誘導に合わせること

憤慨
・気に入らいないことについて独り言のように怒ること
・誰に向けた発言でもなく小さな声で怒りを表現すること

介護職員が早い段階でこれらのメッセージに気づき

「ケアの方向性を変更する」
「状況が変化するのを待つ」
「責任転嫁のための言い訳を提案する」
ことが出来た場合に、BPSDへの移行を防ぐことができていた。

ケアの方向性を変更する

・集団での体操に参加へ不安を感じている本人に、あちらでお手伝いをお願いしようかしらと、テーブル拭きを提案・依頼する
・大声で歌っていて他の人に怒鳴られた本人に対して、今お昼寝の時間だからこれをやってみようかとお手玉をみせる
特に慣れ親しんだ事柄を提示することが、本人の関心を引き寄せるきっかけとなっていた

状況が変化するのを待つ

・職員が近づき声をかけると、身じろぎするのみで返答をせず目もあけなかったが、職員が立ち去ると目をあけ落ち着いて横になっていた。立ち去ることで状況が変化するのを待ち、しばらくして再度声をかけると職員の誘導に従う場面がみられた
男性の利用者など、あまり話をすることを好まず、一人でいたいという意思を明確に持っている認知症高齢者で好転例が認められた

責任転嫁のための言い訳を提案する

・できない理由について、職員が本人以外の事柄で説明することを示すことで、落ち着いて行動できるように導く
・ボタンをうまくはめられず「こんなこともできなくなっちゃって、迷惑ばかりで」と謝る本人に「このボタンがちょっと小さいから難しいんですよね、今日は私がやりますね」
できないことの指摘ではなく、本人以外に理由があることを強調してもらうことで安心するようだった。

症状と対応策

1 不安・抑うつ

認知症になり、様々な認知機能が落ちてくると、日常生活に支障が出てきます。できないことが増えることから、気分が落ち込む(抑うつ)状態が見られることがあります。介護する側は、本人の不安をあおるような言動(例えば、今までできていたのに、何でできないの?など)はしないよう努めることが大切です。意欲の低下や不眠、食欲が落ちたり何事にも興味を示さなくなることから、うつ病とも誤解されがちですが、認知症のBPSDとしてのうつ状態です。今まで趣味や外出を楽しんでいたのに、家に引きこもりがちになる・無関心になる場合が多いと言われています。うつ状態はあらゆる認知症で見られる症状ですが、特にレビー小体型認知症で多く見られる症状として挙げられています。
「認知症」と「うつ」は混同されやすい症状であると共に、認知症となった後にうつを併発することもあります。

対応策

認知症のBPSD全般について言えることですが、何らかのストレスによって引き起こされていると考えられます。そこで、大切なことはそのストレス要因を見つけ、軽減することです。そのためには、介護する側がイライラしたり、認知症の方に何かを無理強いすることなく、ゆっくりと話をしたり、その方にとって居心地の良い環境づくりや時間を過ごす努力が必要です。
うつ状態の場合、話しかけても反応が乏しい場合もあります。しかし、話は聞いてくれていますし、一緒に過ごす時間を嬉しく思っているかもしれません。ただし認知症の方は、たとえ嬉しくとも、気持ちを表現しづらくなっています。そのことを理解した上で、介護に取り組んむことが大切です。

2 認知症による徘徊

見当識障害や記憶障害などの中核症状出現の影響や、寂しさ、ストレスや不安などが重なって、絶えず歩き回る「徘徊」が起こることがあります。介護者がそばにいない場合、脱水や過労、転倒や交通事故・発見されずに行方不明となる恐れもあります。徘徊がみられた場合は、その理由を聞き、本人の気持ちに寄り添うことが大切です。「どちらにお出かけですか?」と落ち着いて声をかける、「今は暗いので外に出てはいけません。」と無理に徘徊をやめさせないで、「ご一緒させて下さいね。」と一緒に歩く。「この辺りはよく来る場所ですか?」など、気をそらすような声かけなどの対応を心がけてみましょう。

対応策

徘徊には、本人が考えている理由があります。ですから、まずは、理由を聞いてみることが大切です。

〇家の中での徘徊の場合
家の中を徘徊している時は、トイレや部屋を探している場合も多いため、「部屋へ帰りましょう」「トイレに行きましょう」など、声をかけてみてください。

〇外へ出てしまう場合
家の中に、本人にとっての不安要素はないかを考えてみてください。幻覚が見える人では、知らない人が家にいるという恐怖を感じ、外へ逃げる人もいます。不安や焦りが募って徘徊に繋がるケースがありますので、本人の言葉に耳を傾けましょう。

〇無理に止めない
徘徊を無理やり止めたり、責めるような口調で注意したりせず、落ち着くまで一緒に歩いたり、気持ちを逸らす努力も大切です。徐々に気持ちが落ち着いてくると、自分から部屋や家に戻る場合もあります。

〇警察に通報する
外に出て行方不明になっている場合は、速やかに警察に連絡しましょう。事故に遭う危険性もあるため、家族だけで探そうとせず、まずは通報してください。

3 弄便(ろうべん)

弄便(ろうべん)とは、便をいじったり、自分の体や寝具・壁などに擦りつける行為です。認知症が進行し、便に対する認識が薄れてしまったり、おむつ内に失禁したことによる不快感、羞恥心など、様々な理由によって起こります。介助すればトイレが利用できる方であれば、できるだけオムツを使わずトイレで自然排泄ができるよう環境を整備すると、弄便の頻度が減る場合もあります。繰り返し起こるこの症状によって介護側が疲弊しないよう、原因や適切な対応、予防策について知ることも大切です。

対応策

〇トイレで排泄する習慣づくり
排便が定期的にあって、時間がわかるようであれば、便が出る前にトイレで排泄するのが一番です。もよおした時には、お腹を触る、力んでいるなど、何かしら普段とは違う気配があることも多いので、見逃さないようにしましょう。時間を決めてトイレに行くのも効果的です。歩けなくなった状態でも手が動けば、弄便が見られる場合もあります。ポータブルトイレに移乗できれば、ポータブルトイレを利用しましょう。トイレが難しく、おむつを利用している場合は、汚れにいち早く気付き、取り替えるようにしましょう。

〇壁や床を掃除しやすいように工夫
壁なら、便を擦り付けやすい場所にビニールで作られた保護シートを貼っておくと、汚れた時に掃除が楽になります。床が畳の場合、畳の目に便が入ってしまい取れない事も出てきますので、畳の上に敷くだけのフローリングカーペットなどを利用するのも良いでしょう。後始末がしやすくなると、精神的な負担が少し和らぐかもしれません。

〇介護者がダウンしないようケアマネに相談
弄便行為によるストレスで、介護者が倒れてしまう場合があります。家族だけで介護をするのは大変負担が大きくなりますので、ケアマネージャーに相談してみましょう。デイサービスやショートステイなど、積極的に利用するのも効果的です。介護者がダウンしてしまわないよう、見守りが難しいときにはサービスを利用してみましょう。

4 物とられ妄想

よく見られる症状のひとつです。認知症が進行すると、いつ、どこに、何をしまい込んだかを忘れてしまいます。自分が置き忘れた自覚がないため、「盗まれた」と家族や介護者など身近な人に疑いの目を向けるようになります。これが「物盗られ妄想」です。疑われた側にとっては怒りや悲しみを感じることもありますが、記憶障害だけでなく、「自分が失くしてしまった」という不安・焦り・自信の喪失なども要因のひとつと考えられていますので、本人の話をよく聞き、誠意ある対応が必要です。

対応策

〇物がなくなりやすい環境が要因である事もあります。財布や貴重品を入れる場所に予め目印を付けたり大きな文字で書いておくと本人にも理解できるようになる場合もあります。また、できる限り本人が探し出せるようにしましょう。家族や介護者が見つけることで、関係性の悪化を最小限にとどめることにつながります。

〇その他、めがねや補聴器、ティッシュペーパーなど日々使用する物は、100円ショップなどで売っているかごに入れておきます。透明で中に何が入っているか分かりますし、手がついているので持ち運びもしやすいです。入浴時や就寝時にかごを持って移動すれば、あちこちに置き忘れることも防止します。

〇興奮が見られていない時に、本人が不安に思っている事がないか、話を聞いてみてください。「配偶者を失くし、息子夫婦と同居を始めた」「ヘルパーサービスを利用し始めた」など、環境の変化が不安の原因となっている場合があります。 生活リズムが変わることが、認知症の方にとって負担になっている事があるのです。子供夫婦と同居が始まった時には、元々住んでいる家族の中に入っていくため、認知症ではなくとも疎外感を持つ人は多いようです。忙しい時に話しかけられた時にも「忙しいから」と突き放さずに「後で聞きますね」などのフォローが必要です。話しかける機会を多く持つと、物盗られ妄想も改善される場合があります。

5 認知症によるせん妄

体調不良や薬の影響、環境の変化などによって意識障害が起こり、混乱した状態になることがあります。時間や場所がわからなくなったり、幻覚を見たり、興奮するなどの精神症状が現れ、人格が変わってしまったように感じることもあるでしょう。暴れたり、周囲に対する暴言や暴力が出ることもあり、治療や介護にも大きな影響を及ぼします。

対応策

脱水や便秘、インフルエンザ、睡眠不足(昼夜逆転)、環境の変化、薬の副作用などによってもせん妄は起こります。様々な要因が重なり合い、原因を特定しにくい場合もあります。そのため、予防には日々の体調管理が不可欠です。例えば、水分を摂る時間を決めて、脱水や便秘の予防を行います。また、日中の活動を増やし、腸の動きを良くすると共に、昼夜逆転を予防します。

6 幻覚

実在しない知覚の情報を、実在するかのように体験する症状です。実際にないものが「見える」幻視のほか、幻聴・幻味・幻臭・体感幻覚などがあり、レビー小体型認知症で多くみられるのが幻視だと言われています。また、アルツハイマー型では幻聴が現れることがあります。本人にとっては現実に見える(聞こえる)症状のため、否定はせず、安心させることを心がけましょう。幻覚として見えていると思われる存在がある場所に一緒に行き、「今は見えませんね」「聞こえませんね」と冷静に確認して安心してもらうのもひとつの方法です。

対応策

〇本人の話を聞く
不安感の現れである場合もあるので、現状に不安がないか、本人の話を良く聞きましょう。
また、体調が悪い場合もありますので、水分は足りているか、熱はないか、便秘はしていないかなどもチェックしてみましょう。

〇見間違いが起こり得る環境を改善する
高齢になり目が悪くなると、ちょっとしたことで見間違いを起こすことがあります。幻覚のきっかけとなり得ますので、環境を整えることも効果的です。例えば、間接照明を使った部屋では、影が多くなります。影は見間違いの原因にもなりますので、部屋を明るくする、導線に影ができるようなものを置かない、足元にランプをつけるなど工夫をします。その他、壁のシミや傷を虫などと間違える場合もありますので、隠すような工夫もしてみましょう。

〇医師に相談する
薬で改善する場合がありますので、幻覚が頻回だったり、興奮が見られる時には医師に相談してください。先述のとおりレビー小体型認知症は初期から幻覚が出ると言われていますので、認知症の診断がされていない方でも、行動に疑問があれば、早めの受診をお勧めします。

7 暴力・暴言

不満や不安・苛立ちが募ったときに、健常な時は理性で抑えていた衝動が暴力・暴言となって現れることがあります。認知症が進行すると、思っている事を表現することが難しくなったり、脳の機能が低下して感情を抑えられなくなるのです。対応には、暴言・暴力の背景にある原因や本人の気持ちをよく知ることが大切です。介護者が介護の在り方を見直したり、本人の意向と真摯に向き合い誠意ある対応をとることで、症状が落ち着くこともあります。
また、暴力や暴言の前段階として、イライラする、不満そうな表情をする場合があります。このような予兆を見逃さずに、「どうかされましたか」「何かご心配なことがありますか」「一緒に散歩しませんか」などの声かけを行うことで気分転換につながり、それ以上の感情の高ぶりを抑えられる場合があります。

対応策

〇関わり方を考える
本人に対する関わり方を考えてみましょう。
本人に何かをさせたい時にうまくいかなくても、無理やりさせたり、力で抑えるのは逆効果です。怖かったというイメージができてしまうと介護拒否につながり、暴力が現れる場合がありますので、注意しましょう。

〇本人を尊重する
・「ベッドに移りましょう」「服を着替えましょう」など頻繁に声をかけ、不安を軽減する
・代わりにやってあげるのではなく、できることは任せる
・安心感を提供するために、手を当てたり、さすったりといった「タッチング」を行ってみる

〇介護者を変えてみる
暴力や暴言は、身近な家族に出やすいと言われています。ヘルパーはどう対応したらよいか教育を受けていますので、介護を任せてみましょう。しかし、担当するヘルパーの入れ替わりが激しいと、落ち着かなくなる場合もあるので、顔なじみのヘルパーを作ることも大切です。

〇体調が悪くないかチェックする
暴力が体調不良から来る場合もありますので、興奮が治まったら熱を測るなど、体調チェックをしてみましょう。便秘でお腹が苦しくイライラとなり、暴力へ繋がることもあります。排便や排尿はスムーズか確認し、トイレに定期的に行くようにタイミングを図ることも大切です。

〇医師に相談する
前頭側頭型認知症やレビー小体認知症は、全く予期せぬ暴力が見られる場合もありますので注意が必要です。また、暴力が酷くなるようであれば医師に相談し認知症薬を変えてもらったり、 興奮などを抑える薬を処方してもらえることもあります。

8 介護拒否

認知症の方が、介護を嫌がることがあります。 介護者や家族は、対応に困ったり途方に暮れることもありますが、本人には嫌がる理由があります。認知機能の低下により介護の意味がわからなかったり、自尊心から嫌がるなど理由は様々ですが、その理由を聞き、本人が心地よく介護を受けられることが重要です。介護する側には介護の「拒否」であっても、認知症の方にとっては「嫌だという意思表示」であることを理解しましょう。

対応策

〇嫌がる理由を聞く
無理強いをせず、嫌がる理由を本人に訊いたり、それまでの生活習慣と照らし合わせて考えてみることが必要です。 原因を突き止め、それを解消するよう努めましょう。

〇前向きな表現で説明する
介護を行う時は、何のために何を行うか、前向きな表現で説明しましょう。納得できれば不安感は解消されるはずです。認知機能の低下で理解力や判断力が落ちていることが考えられるので、わかりやすい表現で説明することも大切です。

〇「安心して介護を受けてもらう」という視点で考える
拒否の根底には不安感があることがほとんどです。本人が安心して介護を受けられるよう、都度工夫してみましょう。例えば施設での食事を摂らなくなった場合は、家で使用していた食器や箸を使うと安心に繋がります。初めての場所でトイレや浴室など生活に密着した施設を利用する場合は、見学に行って実際に使用するものを確認してみるのも一つの方法です。本人が安心して介護を受けられるよう考えてみましょう。

〇介護者の価値観を押し付けない
上記で挙げた介護拒否の理由の中に「今までの習慣や認識と異なる」とあるように、本人は介護者とは違う価値観や認識を持っていることも多いのです。そのことを念頭に置き、介護に臨む姿勢が大切です。拒否が起きたときに、その介護の必要性や意味を押し付けるのではなく、相手の価値観や考え方、生活習慣を理解する努力をしてみましょう。

9 失禁

失禁は、加齢に伴い男性の場合は「前立腺肥大」、女性の場合は骨盤の底を支えている筋肉(骨盤底筋群)が緩んだ「腹圧性尿失禁」により起こります。しかし、認知症の場合は「機能性尿失禁」です。例えば、排尿機能自体は正常でも、「トイレに行くまでに時間がかかり、間に合わない」「トイレに手すりなどがなく、ズボンを下す時に安定した姿勢を保つことができない」「ボタンをはずすことができない」などの加齢によるADL(日常生活動作)の低下によって起こる場合があります。このような場合は、その人に合わせた排泄リズムを考慮し、「そろそろトイレに行きませんか」などの声かけを行う、手すりをつける、「ボタンを外す所をお手伝いしますね」といった排泄環境を整えることにより、最小限の介助で自立した排泄行動が取れます。 一方、認知機能の低下によって、「トイレに行きたいことが伝えられない」「トイレの場所や使い方がわからない」「尿意が認識できない」「排泄行為自体がわからずトイレ以外の場所で排泄してしまう」などのケースが見られます。
トイレの表示を張り紙などで「便所」とわかりやすくする、「お茶を飲む前に、トイレに行きませんか」「お風呂の前にお手洗いを済ませましょう」など生活リズムに合わせて定期的にトイレに誘導するなどの対応により、改善が見られることもあります。

対応策

〇怒らない
トイレの失敗は本人にとって自尊心を傷つける大きな出来事です。羞恥心から汚れた下着を隠す方も多いようです。しかし、そこで怒ったりせず、優しく対応することが大切です。なるべく深刻な雰囲気にならないよう気をつけ、本人の自尊心を傷つけないコミュニケーションを心がけてみてください。

〇介助で自立を助ける
「尿失禁があるからオムツ」という判断をする前に、身体が動く場合は、なるべくトイレを利用できるよう介助しましょう。認知症では、日常生活における自立サポートが大切なポイントの一つです。助けがあればできることは、なるべく本人が行えるよう、手助けをしてみてください。トイレまで向かうのが難しい場合は、ポーダブルトイレを利用するのもよいでしょう。ただし、認知症の方は環境の変化が苦手なため、新しいものを導入する場合、慣れるまで根気よく介助することが重要です。

〇プロの手を借りる
日々続く排泄のケアは、介護者にとって大きな負担ですが、排泄というデリケートな問題を外に相談するのをためらう方も多いようです。介護者自身が倒れてしまう前に、ショートステイを利用したり、ケアマネージャーに相談するなど、プロの手を借りることも考えてみてください。

10 睡眠障害(不眠、昼夜逆転など)

高齢になると睡眠が浅くなり、中途覚醒も増えるのが一般的です。加えて認知症は、体内時計の調節に大きな影響を与え、睡眠のリズムが崩れやすくなります。不眠や昼夜逆転も、夜間にきちんと眠れないために起こる睡眠障害のひとつです。夜間に十分な睡眠を確保できないと、本人の日中の生活に影響をきたすだけでなく、介護者にとっても負担が大きくなります。例えば、寝る前にゆったりとした気持ちになれるように音楽を聴いたり、たらいに湯を入れて足を温めることで眠気を誘います(足浴)。また、起きる際は、カーテンや雨戸をしっかり開けて日光を浴びて、できる限り生活リズムを整えるとともに、不安を取り除く工夫を取り入れましょう。

対応策

〇日光を浴びる
体内時計を整えるには、午前中に日光を浴びるのが効果的です。朝に太陽の光を浴びることは、日中の覚醒水準(意識の明確さ)を上げることにつながります。 家の中にいると、太陽の光を十分に取り込むことができないため、朝の散歩などを習慣化すると良いでしょう。

〇就寝環境を整える
夜は明かりを落とし、眠りやすい環境を作リましょう。ただし認知症の方にとって、暗いこと自体が不安につながることもありますので、本人がリラックスできる環境を作ることが大切です。身体を温めることもリラックス効果が高いので、就寝前に足浴を行うのも有効です。就寝前に足浴の準備が難しければ、靴下を履いてもらう、湯たんぽを使うなどでも良いでしょう。

〇規則正しい生活サイクルをつくり、活動量を増やす
日中の活動量が増えれば、夜スムーズに眠れるようになります。そのためには、規則正しい時間に行動することが大切です。例えば、1日のスケジュール表を作り見やすい場所に貼る、デイサービスやデイケアに参加しグループで活動する、好きなことや趣味を取り入れた活動を行う、散歩をするなど、取り入れやすいものから始めると良いでしょう。

〇寝る前にはトイレに連れて行く
加齢によって、腎臓が尿を濃縮する機能が低下するので、高齢になると夜間にもトイレの回数が増えることがよくあります。眠りが浅いため、トイレが原因で目覚めることも多いでしょう。また、中には夜間失禁が心配で眠れなくなる方もいます。少しでも不安を解消するために、布団に入る前には必ずトイレに連れて行くようにしましょう。それでも不安な場合は、ポーダブルトイレの設置を検討するという方法もあります。

〇不安感を解消する
認知症の方は環境要因に敏感で、様々な不安を抱えてしまいます。夜間の暗さが不安を助長する場合や、中途覚醒した際や頻尿でトイレに起きた際に、寝ぼけていて今自分がどこにいるのか不安になる場合もあります。不安の原因を解決できるように説明をすることが大切です。

〇服薬中の薬について確認する
薬の作用によっては、睡眠サイクルに影響を及ぼす場合があります。そのため、医師の処方指示を確認して、きちんと決められた時間に服用するようにしましょう。不明点があれば、すぐに担当医に相談してください。

〇医師に相談する
家庭内の努力で問題解決しない場合は主治医に相談してみましょう。

11 帰宅願望

「家に帰りたい」と訴えたり、実際に家を出て行ってしまう症状が「帰宅願望」です。 自宅以外の場所で「帰りたい」という欲求が出ることはもちろん、現在住んでいる家にいても帰宅を訴える場合、「生まれ育った家に帰りたい」と言われる方もいらっしゃいます。時には外に出てしまう場合があり、介護者は対応に困ることもあるでしょう。
帰りたい理由は、寂しさやかまってほしい気持ちから生じる場合や、置かれた環境や本人の状態によって個々に異なりますが、落ち着かない環境にいる時に、安心できる場所に帰りたいと考えるのは自然なことです。認知症の方の帰宅願望もそれと同じと考えてみましょう。帰宅したいという気持ちを受け止め、本人の立場に立って対応することが大切です。
対応策
〇気持ちを受け止めた上で興味を逸らす
まずは帰りたい気持ちを否定しないことが大切です。「今日はもう帰れない」や「ここが家です」など、帰ることを否定するような声かけは控えましょう。ますます不安感が募るばかりです。気持ちを受け止めた上で、その人の興味があることに話を向けると、気持ちが切り替わることがあります。
外に出ようとした場合も、部屋に閉じ込めるなど、無理やり行動を抑制するのは逆効果です。話をしながら一緒に散歩することで、落ち着いてもらいましょう。

〇帰りたい理由を聞いて不安を取り除く
帰りたい気持ちには理由があります。その理由を探ってみてください。そのためにはじっくり話を聞く姿勢が大切です。

「家族の夕飯を作るから帰りたい」「家の戸締りをしなくては」など、人によってそれぞれ理由が出てくるはずです。理由がわかったら、今度は「戸締りは済んでいるから大丈夫」というように、帰らなくても問題ないことを伝え、不安を解消するよう務めましょう。
頻繁に帰宅願望が出る場合、介護する側がイライラすることもあるかもしれません。しかし、そこで怒ったり声を荒げないよう注意が必要です。

先に説明したように、不安や焦り、孤独感などから帰宅を訴える症状のため、本人の気持ちに寄り添うことが大切です。重要なのは「帰宅願望がなくなること」よりも「本人の不安な気持ちを軽減すること」であり、その結果として帰宅願望が薄れることです。目的は「本人に安心してもらう」ことと考えてみてください。

12 異食

食べ物ではないものを口に入れてしまうことを「異食」と言います。特に認知症が進んだ中期以降で見られる場合が多い症状です。認知機能の低下により、食べ物かどうかの判断がつかなくなることの他、不安やストレス、体調不良から起こります。

対応策

手の届く範囲のものを何でも口にしてしまう危険性があるため、手に届く範囲になるべく物を置かないよう気をつけましょう。特に注意が必要なのは、ビニールや洗剤、電池やたばこといった、生命の危険にさらされる恐れがあるものです。
例えば、枕元にティッシュペーパーや、ベッド周りにおむつ、ビニール手袋、お尻拭きなど排泄物品を使いやすいように置いている場合もあります。本人の目のつく範囲や手の届く範囲には置かないようにしましょう。場合によっては救急車を呼ぶ等緊急の対応が必要になることを覚えておきましょう。

引用・参考文献
・伊東美緒他:不同意メッセージへの気づき:介護職員とのかかわりの中で出現する認知症の行動・心理症状の回避にむけたケア・老年看護学、15(1)、2011

症状をお持ちの方へメッセージ

今までしっかりされていた家族にBPSDの症状が現れた時、初めに怒りや戸惑いの感情が生まれてくると思います。
しかし、早い段階で不同意メッセージに気がつき対応することで、BPSDの症状を軽減することができます。
自宅に安心(寄り添う)場所があると良いですね。ご家族が一番大変だと思います。家族だけで抱え込まないで私たちに相談してください。