About Care認知症ケアについて

認知症とは

認知症とは、何らかの「脳の病気」によって、ものを覚えること(記憶)、会話を理解すること(言語理解)、できごとを判断すること(判断)などの「認知機能」に影響が出て、それによって生活に支障をきたす状態を指します。
認知症の原因となる脳の病気はたくさんありますが、最も多い認知症はアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)です。二つ以上の認知症が合併する場合もあります。

主な認知症の特徴

【アルツハイマー型認知症】
●ゆっくりと進行します。
●本人は楽観的で、病気だという意識があまりありません。
●昼間に徘徊して、道に迷ったりします。
●嗅覚が衰えやすく、腐ったものに気づかないこともあります。
●事実と異なることを話すことがあります(作話)。
【血管性認知症】
●高血圧など動脈硬化の危険因子を持つ男性がなりやすいです。
●手足の麻痺などの運動障害が起こることがあります。
●気分が落ち込んだり、意欲の低下が見られやすくなります。
●泣きやすくなるなど、感情の制御がしにくくなります。
●初期にはもの忘れの自覚があります。
【レビー小体型認知症】
●子供や動物、昆虫など生々しい幻視があらわれます。
●手足の動きがゆっくりとなり、筋肉が硬直し、転びやすくなります。
●歩行が小刻みで、転びやすくなります。
●初期にはもの忘れの自覚があります。
●睡眠中に大声を上げたり、ばたばたしたりします。
【前側頭型認知症】
●理性をつかさどる前頭葉が侵されるので、行動に抑制が利かなくなり、万引きや交通違反など反社会的行動が増えます。
●興味・関心がなくなると、話の途中でも立ち去ります。
●同じ行為を繰り返したり、不潔をいとわなくなります。
●50歳代くらいから発症することがあります。

認知症の症状

認知症の「認知(中核)症状」は、細胞が死んだり働きが悪くなった結果起こる、患者に共通した症状です。二次的な症状である「行動・心理(周辺)症状」は患者により異なり、治療や周囲の対処の仕方、環境の整え方で改善が期待できます。
行動・心理(周辺)症状が悪化すると、本人も周囲の人もつらい思いをすることが多いですが、認知症の人の特徴や接し方を知らず、認知症の人の心を傷つけることで、行動・心理(周辺)症状を悪化させてしまうことがよくあります。
認知症になったときは、本人が治療を開始・継続することが大切ですが、周囲の人も認知症について学ぶことが必要です。認知症の人への接し方を変えたり環境を整えることで、行動・心理(周辺)症状をおだやかにすることは、本人や周辺の人が認知症と共に生きていくうえで、とても重要なことです。
●記憶障害 ついさっきのことを忘れる
●見当識障害 日時や場所、人などがわからなくなる
●失行 服などを自分で着られなくなる
●失語 うまくしゃべれなくなる
●実行機能障害 料理などができなくなる
●判断力障害 難しい話がわからなくなる など

行動・心理(周辺)症状 BPSD
行動症状、徘徊、暴言・暴力、抵抗、活動量の低下、不潔行為など

心理症状
不安、焦燥感、うつ状態、睡眠障害、興奮、依存、妄想など
行動・心理(周辺)症状 BPSDを作り出さない関わり
不同意メッセージを受け止めることが大切!

認知症の前兆

代表的な認知症であるアルツハイマー型認知症の初期症状は「もの忘れ」ですが、「もの忘れ」以外にも、食欲が低下したり、周囲のことに興味や関心を失ったり、気持ちが落ち込みがちな状態が続いたり、いろいろなことが不安になって落ち着かなくなったりすることがあります。これらの症状はうつ病の症状ともよく似ているので注意する必要があります。

レビー小体型認知症では、認知症の症状が現れる前から、レム睡眠関連行動障害と呼ばれる症状がみられることがあります。これは眠っている時に大きな声で寝言を言ったり、時には立ち上がったり、歩き回ったりするような症状です。

血管性認知症の前兆としては、注意・集中力が次第に低下し、気分が不安定になり、うつ状態や不安状態になったり、身体のことばかりが気にかかったり、自発性が低下して何もせずに無為に過ごすような状態が続いたりすることがあります。

いずれの認知症においても、そのはじまりにおいては、これまでできていたさまざまな仕事などがうまくいかなくなることを経験します。そのために、社会生活や職業生活のなかでの失敗が多くなります。

認知症の予防

「認知症は予防できるのか」という質問に対しての答えは、「はい」と「いいえ」の両方があります。
まず「いいえ」の方ですが、残念ながら認知症を完全に予防する方法は、現状ではありません。老化が基盤にあるので、いずれは脳の機能は衰えてきます。
しかし、認知症の発症や進行は遅らせることができます。それが「はい」の答えのほうです。認知症の発症は生活習慣や病気と深く関係していることがわかっています。認知症に、かかりにくい生活習慣を送り、持病をコントロールして、認知症の発症や進行をできるだけ遅らせることが認知症の予防となるのです。

〇原因疾患で考える認知症の予防
例えば血管性認知症では、脳血管障害のリスクファクターである生活習慣病(高血圧症、糖尿病、高脂血症など)の予防と治療が重要です。また、最近の調査では、高血圧症や糖尿病がアルツハイマー型認知症の発症とも深く関連していることがわかってきています。高血圧症や糖尿病などの生活習慣病がある方は、運動、食事、必要な薬の服用などに気をつけてしっかりと治療し、悪化を防ぐことが大切です。

運動の習慣は生活習慣病の予防だけではなく、認知機能の低下抑制にも役立つのではないかということが最近の調査でわかってきています。運動そのものが脳機能の改善に役立つかもしれません。食事のなかの栄養素では、ポリフェノール(トマトに含まれるリコピン、緑茶に含まれるカテキン、赤ワインに含まれるレスベラトロール、カレースパイスのターメリック(ウコン)に含まれるクルクミンなど)やビタミンCなども認知症の予防に役立つ可能性が指摘されています。しかし、食事に一番肝心なことは、バランスよく栄養素を摂取することです。

心の健康や社会とのつながりも、認知症の予防に役立つかもしれません。うつ病になるとアルツハイマー病の発症リスクが約2倍高まるという報告があります。一方、「困った時に気軽に相談できる人がいる」といった、人と人とのつながりを持つことが、うつ病の発症リスクを約1/2低下させるという報告もあります。日々の暮らしのなかで、人と人とのつながりや心の健康に気を配ることがとても大切です。

認知症介護の留意点

一番のポイントは、認知症という病気を持って生きる人の思いを知ることです。認知症の初期の段階では、物忘れなどによって日々の生活が思うようにいかないことを繰り返し経験し、不安な日々を過ごすことになるでしょう。人によってはすっかり気持ちが落ち込んでうつ状態になったり、探し物がなかなかみつからないと「誰かが盗んだのではないか」と被害的になったりする方もいます。そのような不安のなかで日々暮らしている人の気持ちを周囲が理解することがとても重要です。「少しぐらいのもの忘れは誰でもあるし、お互いに支え合えば安心して暮らしていくことができる」と実感できるような雰囲気づくり、環境づくりをしていくことがポイントです。

環境づくりで大切なことは、薬の管理、金銭の管理、交通機関を利用しての外出など、IADLと言われる手段的日常生活動作の支障をサポートできる体制を作ることです。お薬は1回分ずつ小分けにしたり(一包化)、服薬したことが自分でも分かるように服薬カレンダーを用意したり、その都度声をかけてあげたりします。金銭については、小さな額は本人管理、大きな額は家族がサポートして銀行預金。通院が遠方の外出には誰かが何気なく付き添ってあげます。このようなサポートは家族的支援と呼ばれることがありますが、ひとり暮らしの場合、このようなサポートをどうするか、地域のなかで考えていく必要があります。

認知症が進行すると、食事、着替え、入浴、トイレなどにも介助が必要になります。どうすれば気持ちよく身の回りのお世話をすることができるか、介護支援専門員と相談したり、地域で行われている「家族の会」などに参加して、経験者の話を聞いたりします。介護をしている方同士で、お互いの経験や困りごとなど、気軽に話すことができるネットワークを作っておくことが大切です。

認知症と普通の物忘れの違い
病気ではないもの忘れは、その内容は思い出せなくても、忘れたという自覚はあります。しかし認知症のもの忘れは、そのこと自体を忘れてしまうので、もの忘れの自覚がありません。例えば、朝食を食べても、食べたこと自体を忘れているので、本人も本当に食べていないと思っているため、周囲の人が困惑することになってしまいます。
【普通のもの忘れ】
〇もの忘れを自覚できる
〇出来事の記憶の一部が欠ける
〇ヒントを出すと思い出せる
〇年次や日付、曜日を間違えることがある
日常生活に大きな支障はない

【認知症のもの忘れ】
脳細胞の減少など大脳の病気
〇もの忘れを自覚できない
〇出来事の記憶が丸ごと消える
〇ヒントを出しても思い出せない
〇年次や日付、季節が分からなくなる
日常生活に支障が出る

当施設での取り組みについて

●認知症ケア専門士、認知症ケア実践者研修に毎年職員が参加をし、認知症ケアの専門知識習得を行っています。

認知症ケア専門士とは・・・認知症ケアに対する優れた学識と高度の技能、および倫理観を備えた専門技術士を養成し, わが国における認知症ケア技術の向上ならびに保健・福祉に貢献することを目的として設立された 一般社団法人日本認知症ケア学会認定の資格です。

認知症ケア実践者研修とは・・・認知症ケアの実践者として、講義や演習、ディスカッション、実習を通じて認知症についての理解を深めていきます。認知症の方の能力を生かした介護方法を選べるようになったり、認知症の方の権利を守る方法、家族を上手に支援する方法などを身につけたりすることができます。

認知症の方をケアするうえで当法人が実践していること

●相手のペースに合わせる
ケアをするなかで、ついつい介護をする側のペースに合わせてしまいがちですが、認知症高齢者の方は焦らされることをとても嫌います。
歩くペースがゆっくりの方であれば、入浴にお誘いする時間を逆算して誘導をします。乗車するまでに時間が掛る方であれば、少し早めに移動を開始するようにしています。

●同じ話を何回されても、私たちは頷いて聞きます
その方にとって、一番の思い出になっていることは何度でも人に聞いてもらいたいものです。
例えば、海外旅行に行った話や子育てをしていた時の話など。話を聞くこと=(イコール)相手の存在を認めることにつながる大切なケアだと私たちは考えます。

●同じ質問をされても、私たちは笑顔で答えます
認知症の方がなぜ質問を繰り返すのか。認知症の進行具合により違いはありますが、大きく分けて2つあると考えます。
1つ目は失敗することが心配なため。例えば、排泄の失敗が不安で、何度もトレイに行ったか確認をする。場所を確認するケースがあります。不安な気持ちを解消するためにも、同じ質問をされても、笑顔で答えることが大切です。
2つ目は前回やったことの記憶がないため。
認知症の方にとって、毎日毎日が新しい一日と言われています。前回同じことをやっていても、今日やることが初めてだと認識をしています。それなのに、「この間も同じことをしましたよ。」と言われたら、どんなふうに感じますでしょうか。説明をするのは、ほんの数秒です。その手間を惜しまないことで、認知症の方が安心して過ごせるようになります。

事例紹介

女性 アルツハイマー型認知症
デイサービスを週3回利用

歩行は自立ですが、時々急ごうとして転倒しそうになる為、傍での見守りが必要です。会話は多少可能であるが、つじつまが合わない事が多くある。デイ来所されるとどなたにもニコニコして椅子に座っている。時々事務所の中を覗いたり、テーブルの上に置いてある物を触ったりソワソワしたり、デイルーム内をウロウロしている時に服を脱ごうとしたり、ズボン等を下す仕草が見られ、問題行動が多いと言われていた。
少し様子を観察してからトイレに行きたいのではと思い、「トイレですか?」と職員が声を掛けても曖昧な返事。デイルームの隅の方に移動していただき、「小さな声でお便所に行きますか?」と声を掛けると「えぇ」と返事をされる。お便所まで案内して職員のペースでズボンを下げようとすると「いゃー」と大声を出したため、一つひとつ丁寧に声掛けをし、羞恥心に気を配り介助を行うようにしたら、スムーズに排泄することができるようになった。デイルームでズボン等を下す行為が無くなり、A様がソワソワするような行動がある時には、笑顔で小さめの声で「お便所に行きますか?」と声掛けをしている。「トイレ」という表記から「お便所」に案内も変更をした。

症例報告

アルツハイマー型認知症で80代女性、夫と2人暮らし。

自宅で突然「困った、迷惑かけた、どうしたら良いの?」と訴えが何回もあり、夫が対応に困ってしまいデイサービスに相談して来られたケースです。
デイサービスに見えた時に「〇〇さん、何か困っていることありますか?」
「私で良ければお話し聞かせて、〇〇さんの役に立ちたいから」と目を見つめお話しをすると、「私見てたけど、止める事が出来なく困った」「もう少ししっかりしてたら」と困った顔。
私たちも何があった分かりませんでしたが、話を聞きながら、相づちを打ち、職員が〇〇さんを抱きしめ、大丈夫ありがとう、〇〇さんは優しいんですね。いつも力になって頂いてますよ、これからも宜しくお願いしますね。と、にこやかに話しました。
すると、自宅でも少しずつ落ち着きが出てきたと、夫より連絡が有りました。
まずは、原因や問題を探すことよりも、相手の理解者となり寄り添うことが大切だと感じたケースでした。
自宅で困った事が有りましたら、ケアマネさんや、デイサービスの職員に遠慮なく相談されると良いと思います。

認知症ケア専門士からメッセージ

職種 生活相談員・介護職
資格 介護福祉士・認知症ケア専門士
氏名 平野 壽子

夫と娘の3人暮らし。
アルツハイマー型認知症。72歳
デイサービスの利用日にお迎えに行くと、「行ってらっしゃい」と夫が送り出し「ちゃんと戸締りしてよ」と利用者様。
車に乗って走り出すと、「大丈夫かな」「戸締りできてるかな」「この辺変な人がいるから」と心配顔。
運転している職員が「大丈夫ですよご主人様がしっかりと鍵を掛けると言ってましたよ」と話すと少し安心されましたが、デイ到着後、職員を捕まえては「家大丈夫かな」「戸締り大丈夫かな」と同じ話を繰り返す。
職員や他の利用者様が「大丈夫ですよ」と答えると「何にも知らないくせに」と怒りだす。
「やっぱり帰る」と玄関から出ようとする仕草が何回もあったが、外に出る事はなかった。
ある朝、お迎えに伺うと「もう、うるさい」とイライラした様子で出て来られた。
朝から喧嘩をしたと話された。
その日の午前中、職員が目を離したすきに出て行ってしまった。
出て直ぐに気づき、暫く歩行を見ながら後ろから付いて行きました。
疲れて来たように見えたので、職員は先回りをして、偶然会ったように「あー〇〇さん、どうしたの?何処に行かれるの?」と声を掛けると、強ばった顔が、知っている顔だと思ったのか、嬉しそうに安心した顔になり「何処に行くのか分からない、どうしたら良いの」とまた不安顔。
「喉も乾いたと思うから何かのみましょう」とデイサービスに戻り水分を取ると、落ち着き嬉しそうに回りの利用者様と会話をされていた。
デイサービス利用日は、なるべく明るく自宅を出て来られる様に、家族にも協力して頂いた。
外に出てしまう時には、偶然を装い、知っている顔を見ることで安心して頂く。
決して、外に出て行かないで、駄目駄目などと否定した言葉は発せず、「どうしたんですか?何処に行かれますか?」と優しい眼差しで話しかける様にしたいですね。

認知症患者を持つご家族に対して

認知症の方は同じ話を、何回も何回もされる事が多くあり、ご家族の方は本当に大変だと思います。
頑張ってとは言えませんが「さっきも同じことを話した」「今忙しいから」と怒らず聞いてあげて欲しいです。
自宅に安心(寄り添う)居場所があると良いですね。
ご家族が一番大変だと思います。家族だけで抱え込まないで私達に相談して下さい。