About Care 脳卒中について

脳卒中とは?

「脳卒中」は一般的ないい方で、正式な医学用語では脳血管障害と呼ばれます。思考や感情を含め、私たちが生きていくためのからだのすべての活動をつかさどる脳には、すみずみまで血管(動脈)が行き渡っています。これらの血管を流れる血液によって、脳に必要な栄養や酸素が届けられています。

脳血管障害は、これらの脳の動脈が詰まったり破れたりして、脳の組織に栄養や酸素が十分に行き届かずに障害を起こし、その結果、手や足の運動麻痺や感覚鈍麻、ろれつが回らなくなる、頭痛、意識の低下などの症状が出てくる病気です。その症状の程度、残される障害は、詰まったり破れたりした脳の場所や程度によって違いがあります。

◇脳卒中(脳血管障害)の患者数
かつて国民病といわれた脳卒中(脳血管障害)は、昭和26年から55年まで、日本人の死亡原因の第1位でした。しかし、現在は、がんや心臓の病気、肺炎に次ぐ第4位となっています。
しかし発症する患者さんの数は必ずしも減っておらず、平成23年の調査では、123万5千人ほどとなっています。
これは、脳卒中の治療が格段に進歩し、脳卒中発症直後には亡くなる患者さんが減ったため、あるいは比較的軽度の患者さんが増えたためと考えられますが、一方高い介護度の患者さんの原因となった病気では第1位となっており、現在も日本人にとって重要な病気の1つであることに変わりはありません。

◇脳卒中(脳血管障害)の分類
脳卒中にはいくつかのタイプがありますが、大きく分けると、脳の血管が詰まったり血流が悪くなるタイプの脳梗塞(のうこうそく)と、破れるタイプの脳出血(脳の内部で出血)、脳の表面でくも膜と軟膜の間に出血するくも膜下出血の3つに分類されます。
脳梗塞はさらに、心臓の中にできた血栓(けっせん)【血のかたまり】がはがれ、脳まで流れてきて動脈を詰まらせる心原性脳梗塞症(しんげんせいのうこうそくしょう)、脳内や頸の太い動脈が詰まるアテローム血栓性梗塞(けっせんせいこうそく)、細い動脈が詰まるラクナ梗塞(こうそく)、に分けられます。

症状

・意識障害 脳幹部や大脳が広汎に障害を受け、意識に関するはたらきが損なわれると、意識が薄れることや、意識がなくなるなどの症状が現れます。

・運動障害 前頭葉からの運動繊維が障害を受け、反対側手足の動きに関するはたらきが損なわれると、半身の麻痺、手足に力が入らない、足がもつれるなどの症状が現れます。

・感覚障害 手足から大脳頭頂葉に至る感覚に関係する神経路が障害を受け、反対側の顔・手足などの感覚が損なわれると、痛みを感じにくくなる、触っても分からない、手足のしびれ(異常感覚)などの症状が現れます。

・言語障害―構音障害(こうおんしょうがい) 口を動かす神経線維の障害や小脳に障害が起こると、ろれつが回らないなどの症状が現れます。

・言語障害―失語症(しつごしょう) 前頭葉ブローカ中枢や側頭葉ウェルニッケ中枢が障害を受けることにより、うまく話せなくなる、聞いて理解するはたらきが損なわれるために、自分の言いたいことを話すことができない、人の言うことが理解できないといった症状が現れます。

・視覚障害 後頭葉ないし視覚の経路、あるいは眼そのものが障害を受け、視覚に関するはたらきが損なわれるために、同名性半盲(両目の視野の左右どちらか半分が見えない)、黒内障(突然、一方の目が見えなくなる。一過性のことが多い)などの症状が現れます。

一般的な脳卒中以外に、クモ膜下出血では特徴的な症状が見られます。

・クモ膜下出血の典型的な症状
バッドで殴られたような突然の今まで経験したことがないほど激しい頭痛で始まる。手足の麻痺はないことも多い。意識がなくなることもある。

クモ膜下出血の警告症状
・軽い頭痛、複視(ものが二重に見える)、吐き気がする、吐く、めまいなど

◇症状に気づいたら
脳卒中の診断・治療の進歩は目覚ましく、発症後の早い対応により、命が助かる可能性、あるいは、自立した生活を送る機能を残す可能性も高くなっています。症状に気づいたら、すばやく対応することが大切です。

脳卒中と思われる症状が出た場合、本人ないし周囲の方が必ず救急車を呼び、救急車を待っている間に、以下のような対応を行いましょう。

大切なのは、頭があまり動かないようにして、頭を水平にした状態で寝させてあげることです。頭を上げると脳への血の巡りが悪くなり、さらに意識がかすれ麻痺やしびれが悪くなるからです。ただし、その時の状態によって横向けにすることも必要です。例えば嘔吐が強い場合は横に向けないと危険ですし、麻痺がはっきりしていたら麻痺側を上にして横向けにしなければなりません。
また、救急車到着までに、手伝ってくれる人手を確保し、到着後、家族はかかりつけの病院や今までにかかった病気、服用している薬の名前、希望の病院などを救急隊に伝えるようにしましょう。

脳卒中の危険因子は?

脳卒中の危険因子の代表は加齢と高血圧です。

・高血圧 血管内の血液の圧力が高くなると血管の内壁に負荷がかかり、血管の内壁がもろくなっていきます。その結果、血管が破れて出血しやすくなったり、傷がつき詰まりやすくなったりします。

他に重要な危険因子として以下が挙げられます。

・糖尿病 糖尿病は動脈の壁の弾力がなくなる動脈硬化を引き起こします。動脈硬化が起きると、血液をうまく送ることができなくなって心臓に負担をかけたり、血流が悪くなります。

・脂質異常症 脂質異常、特にLDL(悪玉)コレステロールが高い場合、HDL(善玉)コレステロールが低い場合、高血圧や糖尿病で傷ついた血管に脂質などが溜まって、動脈硬化を導くと考えられています。

・心房細動・心臓弁膜症 脳梗塞のうち、心原性脳梗塞症の重要な危険因子は心房細動(しんぼうさいどう)や心弁膜症という心臓病です。心臓にこうした疾患があると心臓の動きが鈍くなったり不規則に拍動したりして、心臓内に血のかたまりができやすくなります。この血のかたまりが脳へ飛んで、血管を詰まらせる塞栓(そくせん)が起こる可能性があるからです。

・その他の生活習慣
喫煙、多量飲酒、運動不足、過労・ストレスの蓄積といった生活習慣、また肥満は、脳卒中の危険因子となります。

高血圧、脂質異常症、糖尿病などの病気を招きやすい体質には遺伝するものがあります。また、脳卒中になりやすい体質も遺伝が関係する可能性があります。多くの場合、遺伝的な素因に悪い生活習慣が加わると、脳卒中が起こりやすくなります。また、クモ膜下出血の原因となる脳動脈瘤は、家族性に起こることもあります。

脳卒中の発症を予防するには

脳卒中の危険因子の治療が発症予防に重要です。脳卒中の危険因子となる病気として、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動などが挙げられます。とくに高血圧は、脳梗塞、脳出血ともに一番の危険因子です。
脳卒中の予防には、危険因子となるそれぞれの疾患の治療とともに、多量飲酒、喫煙、運動不足、肥満といった生活習慣を見直して、適度な飲酒、禁煙、積極的に身体を動かす、野菜(特に緑黄色野菜)や果物を毎日適量摂取する、ストレスを溜めない、といった健康的な生活を送ることが大切になってきます。 家族に脳卒中になった人がいる場合はとくに注意が必要です。

◇高血圧の管理
血圧は、140/90mmHg未満、糖尿病や腎臓病などがある人は130/80mmHg未満を目標とします。75歳以上の後期高齢者は150/90mmHg以下ならよいと言われます。高血圧と診断されている方は、朝と夜の1日2回〔朝1回でもよい〕の自宅での測定を心がけることが大切です。また、血圧の管理には、生活習慣の見直しが重要です。 血圧を下げるのにとくに有効な生活習慣は、①塩分を減らす②適正な体重③適度な運動です。

◇糖尿病の管理
高血圧と同様に、糖尿病の治療を受けている人は治療を続けていくことが脳卒中の予防にもつながっていきます。医師の指示の下、服薬、食事療法や運動療法で血糖コントロールを心がけましょう。

◇脂質異常症の管理
脂質異常症うち、血中のLDLコレステロール濃度が高い、また、HDLコレステロール濃度が低いという状態が続くことは、まだ議論はあるものの、脳卒中の発症と関連が深いとされています。脂質異常症の管理のみで脳卒中を予防できるわけではありませんが、野菜や果物、魚介類、豆類の積極的な摂取、運動といった脂質異常症の予防となる生活習慣を取り入れていくことは脳卒中の予防につながります。

◇心房細動の管理
不整脈の治療に加え、高血圧や糖尿病など、心房細動を引き起こす原因となる病気を治療することが大切です。また、心房細動がある人には、血栓を予防する薬〔ワルファリン、その他の新しい抗凝固薬など〕を定期的に飲むことが、脳梗塞の予防になります。

リハビリテーションではどんなことをするのか?

リハビリテーションは、低下した機能を、少しずつ回復させるための訓練です。
脳卒中のリハビリテーションは、一般に、急性期、回復期、維持期に分けられます。

◇急性期リハビリテーション
患者さんの症状により訓練は異なりますが、廃用症候群(はいようしょうこうぐん)を予防するために、原則、発症当日からリハビリテーションが行われます。

発症後数日で、からだを起こしたり、立ったり、ベッドから車椅子へ移動したりという訓練などが行われます。からだを起こすことが困難な場合は、手足の位置を変えたり、体位を変えたり、また、関節を少しずつ動かすなどの訓練を行います。

~廃用症候群(はいようしょうこうぐん)とは~
長期間にわたって、横になった姿勢を続け手足を動かさないことにより、全身の機能が低下してしまう状態をいいます。体力の低下や筋肉の萎縮、関節が固くなる、心臓や肺の機能の低下などの症状が現れます。

◇回復期リハビリテーション
この時期の訓練は、機能の最大限の回復を目指して行われ、集中的に行うことが、退院後の日常生活に必要な動作に大きく影響してきます。障害に合わせ、以下のような内容の訓練を理学療法士、作業療法士などのサポートを受けながら行っていきます。
・移動訓練(移動、移乗の訓練)
・動作訓練(日常生活を送る上で必要となる動作を自分で行う訓練)
・嚥下訓練(食べ物を飲み込む訓練)
・コミュニケーション訓練(自分自身の思考や感情などをほかの人に伝達し合って、理解を深める訓練)
・認知機能訓練(思考や理解、判断、記憶、学習などの知的能力の訓練)

◇維持期リハビリテーション
回復期のリハビリテーションが終了した患者さんに対して行われます。筋力、体力、歩行能力の維持や、より良く生活することを目的として行われます。
この時期、患者さん個々の生活スタイルに合わせ、いくつかのリハビリテーションがあります。

訪問リハビリテーション:医療施設のスタッフが患者さんの自宅を訪れて行われます
外来リハビリテーション:医療機関へ通院して行われます
地域リハビリテーション:医療機関を退院後、地域の医療施設に通って行われます

◇退院後のリハビリテーション
自宅に戻って、体力を低下させないよう訓練を継続します。

関節が硬くなると手足の動作が鈍くなってしまいます。医師の指示の下ストレッチを行って、関節が硬くならないよう予防していきます。

足の筋力が弱くなると、歩行に支障を来たします。 無理のないよう、いすから立ち上がるなどの簡単な動作も、筋力が弱まるのを少しでも予防できます。

さらに、塩分と脂肪を控えめにしたバランスの良い食事と、禁煙、節酒を心がけた規則正しい生活を送り、脳卒中の再発を予防しましょう。

当施設での取り組みについて

当施設では、自宅に戻って体力を低下させないように、移動訓練、動作訓練を中心にリハビリテーションの提供を行っています。また、自宅での役割を取り戻すために、調理や洗濯といった日常生活動作に必要な訓練も積極的に行っています。